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我が家に飯田深雪さんのレシピ本があるのはなぜかと言うと、それは飯田深雪さんのスタジオが実家の側にあり、母が何度か飯田さんを見かけていたため、そのレシピ本をと、お菓子作りに目覚め始めたばかりの私に送って来てくれたからだ。

レシピは今やインターネットですぐに検索できるが、アナログな私はやはり「手で持って読む」本が好きだ。だから、我が家にはたくさんのレシピ本がある。哲と付き合い初めに買ったボロボロになったオレンジページからここ近年のレシピ本まで揃っているが、それらを比較すると最近のレシピ本は、本当に見やすく改良されていることが分かる。読みやすい校正、綺麗な写真、細かい説明、レシピのこだわり、出来上がった料理の保存の仕方、その料理の見せ方。レシピ本と言うのは元来調理する時に見るものなのだろうが、最近のレシピ本はバイブルのように熟読出来る内容の濃さとなっている。そんな中、この飯田深雪さんのレシピ本は写真はあり、見やすいものの、作る工程の説明は、
1計量する 2混ぜる 3焼くにちょっと手が加わったくらいのものだったから、お菓子作り初心者の私はそれはそれは苦労して「かたち」にしたのだった。

あのリンゴのお菓子を苦労して「かたち」にした日から、一体、どれだけのお菓子を焼いたことだろう。きっと今、同じものを焼けば、おそらくあの時に大変だと思ったことが「こんなに簡単」と思える自分に成長していることを感じることが出来るはずだ。それも感じたく私は再度、この飯田深雪さんの本に手を伸ばしたのだった。

リンゴを10個剥いた。煮詰めた。生地を用意した。生地を伸ばす。伸びない。頑張って伸ばす。伸びない。形にしようとする。できない。

今まで学んだ全ての知識を駆使しようと、まとまらない生地を前に戦いを挑むかのように仁王立ちになり、考えに考えたが打開策が出なかった。